2015年06月14日

安保法制と被災地訪問

 安倍首相が屋久島町を訪問した。爆発的噴火で全住民が避難した鹿児島県屋久島町の口永良部島の被災状況を確認するためだ。
 テレビに映し出された首相は、避難所の老人施設で避難民らを慰労、激励して帰京した。膝を折り言葉をかける首相に住民はさぞ喜んだことだろう。「いつ島に戻れるか」―――住民の不安は尽きない。高齢者の多い住民の心のケアをどうするかも深刻な問題になり始めている。
 昨年来の連続する自然災害に、人智を超える自然の脅威を思わざるを得ない。政治にできることは限られているが、行政の初動、その後の被害対応が十分だったか、改めて検証すべきだろう。

 ところで首相の屋久島入りの意味を別の角度から少しばかり考えてみたい。
 周知のごとく、国政は集団的自衛権行使を巡る安保法制の審議で上を下をの大騒ぎだ。国会に呼ばれた3人の憲法学者が与党、野党推薦の立場を超えて安保法制は「違憲だ」と断じ、安保法制の「そもそも」まで議論が戻ってしまった。安倍1強に恐れをなして物言わぬ与党議員に義憤を感じた、今でこそ議員バッジをつけていないが戦争を知る長老議員だった4人も日本記者クラブで会見、怒りと憂いを口にした。
 安保法制が国民に分からないだけでなく、当の政権与党の議員たちでさえ理解できないのだから、今さらながら安倍政権の「急ぎぶり」への反発が強まっている。日を追うごとに法制に対する国民の批判が高まり、国民のうっ憤は爆発寸前と言っていい。
 この数日、与党内にも政権の急ぎ過ぎ、説明不足を言い出す声が聞かれるようになったが、なぜか政権首脳らに危機感が感じられない。間もなく期限がくる今国会の会期を延長して法案成立を図るべく、腰の定まらない野党の一部にくさびを打ち込んで突破口を開こうとしている。何が何でも今国会中に安保法制を成立させるための、あの手この手をひねり出すだろう。なにせ、法案提出前に米国で「今夏に成立させる」と断言してしまったのだから、今さら、引っ込みがつかないのである。

 安倍政権にとっては一刻の猶予もないはずなのに、屋久島入りした意図は一体何なのか。圧倒的多数の「数」でいずれ押し切れると踏んでの訪問なのか、あるいは口永良部住民を心配しての訪問なのかは分からない。
 だが、私は首相が逆風が吹き始めた世論の局面転換を狙っての屋久島入りではないかと推測している。
 なぜか――――。
 安保法制に懸けた首相の執念は並みでないことは言うまでもない。国会の特別委員会で見せる強気の答弁、質問者にヤジを飛ばし後でさらりと謝ってみせたかと思えば、今度は「早く質問しろよ」と民主党の女性議員に面と向かって言う見下す言葉。言論の府とは言い難い発言である。
 「女性が輝く」「女性の役割を尊重する社会」などといった、自ら掲げた政権のスローガンを当の本人が破り捨てるような言葉を臆面もなく口にする。成長戦略の柱とも言った女性への尊敬の念などまるでない。
 そうした傲岸不遜な態度を、どこかに置き忘れたかのような屋久島の避難所でのしおらしい言葉に安倍首相の老獪さ∞計算づく≠ェ見える。
 不安をかこつ住民の声に耳を傾け、精一杯の努力、支援を約束する映像は、何とも情≠ノ満ちて国会審議での横柄さも薄めてくれるようだ。首相が膝を折って、目線を同じくして語り掛けられれば、純朴な住民は「首相が支援を約束してくれた」と喜ぶのは当然だ。
 膝を折って同じ目線で被災者と言葉を交わす―――天皇、皇后両陛下の被災地慰問の姿だった。ひょっとして、首相も両陛下の真摯な姿を思い浮かべ、真似たのかもしれない。
 国会審議で野党の追及に「丁寧に説明する」「寄り添って」などと言いながら、現実は安保法制にしろ、沖縄・辺野古問題にしろ、国の方針をごり押しにしている。そんな首相が国会での独演がウソのようなしおらしい姿をテレビで何度も見せられれば、視聴者の心象も少しは揺れるというものだ。テレビニュース映像の効果は大なのである。 
 首相は今回だけでなく、東日本大震災で甚大な被害を蒙った岩手、宮城、福島の3県へ頻繁に足を運んだ。「東北の復興なくして、日本の復興はない」と、何度言っただろうか。
 首相の被災地訪問は、不思議と国政が熱くなっている時期に重なる。日程の都合だと言われればそんな理由も否定しないが、首相の硬軟両面の素顔がタイミングよく組み合わされている。今年2月の岩手、宮城県の被災訪問は施政方針演説を終えた直後(同月末は福島訪問)、5月末の訪問は安保法制を巡る与野党の駆け引きがヤマ場に差し掛かっていた時期だ。
 首相の東北被災地訪問は20回を超えた。「月に1回は被災地を見る」の約束を守っている。その行動力は認めるが、誰もが気になるのは訪問先の「復興ぶり」だ。復旧から復興が着実に進む地域を見せたいと思う首相側近の気持ちは分からいではないが、もっと生々しい被災地の現状、住民が寄り付けない地域を首相の目に留まらせることがなぜできないのか不思議でならない。
 
posted by 裁判官 at 23:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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